トレーナーズトレーニングの内容とそのデザインの仕方
2017/12/26
トレーナーズトレーニングを受講した経験はありますか?
では、トレーナーズトレーニングを計画実施したことは如何ですか?
実は、レジリンストレーニングの最もノウハイが乏しいのは、認知行動療法の手法を教室に展開することです。
目次
レジリンストレーニングを教室に展開する難しさ
難しい理由は、次のような要素の違いがあるからです。
- 知識やスキルの習得だけがレジリンストレーニングの目的でなくて、自己の内面を見つめる事を求めなければ効果が希薄となるので、難易度そのものが高い
- 同時に複数の受講生を相手にするため、個別の観察やフォローが難しい
- 講師と受講生という関係だけでなく、受講生同士の関係がプラスにもマイナスに作用するため、そのダイナニズムを上手く管理する必要がある
- 個人の内面を扱う局面では、講師が教示的であったり支配的であってはならず、質問によってリーディングするソクラテックアプローチの技術が求められる
極端な言い方をすれば知識やスキルの習得が目的の場合、受講生は講師のコピーをすれば事足ることになります。講師が見本なのですから。
しかし、レジリンスについては、各自の置かれた環境下で、自分の信念、価値観、個性を前提として、如何に自分が講師の時に上手く伝えていけれるかが課題となります。そのため、自分とは個性が違うトレナーズトレーニングの講師を見本とする事ができず、自らのやり方や考え方を構築しなければなりません。レジリンストレーニングは、参加者に、キッカケや考え方の切り口を提供し、講師も含め共に考える場を如何に作り出すかが重要なポイントです。
したがって、レジリエンストレーニングは、体験と気づき、そして一般化を受講生自身ができるように、考える材料(実習等)を設定し、「自分は、今後、どうしたら良いか?」の自分の回答を受講生自身自らが見つけ出すための情報を提供したり、考えを深め質問をすることがトレーナーの役割となります。
トレーナーズトレーニングの二重構造
さらに、上記のトレーニングをおこなうトレーナーを教えようとするトレーナーズトレーニングは、「レジリンストレーニング」を受講生としての視線で経験し、同時にトレーナーとしてそのトレーニングをどのように運営するかということを学ぶことになります。
一方、レジリンストレーニングは、上記のように、先ずは考える材料を提供し、受講生に考えさせるという事がセットになっているモジュールが何回となく題材を変えて実施されます。
乱暴な言い方をすれば、レジリンストレーニングは、手品を見せて、そのタネを考えさせて、最後にタネ明かしをして、「あ、そうか!」という側面があります。
レジリンストレーナーズトレーニングは、「まずは、レジリンストレーニングを体験して下さい。その後トレーニング方法を紹介します」という組立てになります。
そうは言っても、レジリンストレーニングを実施しようとするトレーナーである受講生は、「タネ」が気になって仕方ないという中で、実習や討議を実施しつつ、その直後に、タネ明かしを含めたインストラクションのポイントを教えるという二重構造になっています。
トレーナーズトレーニングの内容
トレーナーとしての基礎スキル
ここで紹介するスキルは、知識やスキルのトレーナーと共通する部分ですので、トレーナーズトレーニングにでは実施しない場合が多くあります。
ホワイトボードの使い方
最近は、全てパワーポイントを使用することが多くなったので知らな人がほとんどですが、レクチャーやパワーポイントの構成につながるものがあります。
何も書いて無いホワイトボードを三等分のエリアをイメージします。線は書きません。あくまでもイメージです。
そして、一番左側のエリアは、章立てを箇条書きスタイルで書いていきます。例えば「1.レジリンスとは」というように。
「1.レジリンスとは」の詳細をレクチャーの話す内容について、順に章の詳細項目を中央に書きます。そして、さらに、その詳細を一番右側に好きなように書きます。
下の例では、「①恐怖」の詳細を一番右側に喋りながら書いています。
一番右側が書ききれなくなったら、一番右側の内容を消して追加しても良いでしょう。
次に、話が展開で したら、中央の内容を中央のエリアに追記します。下の例では、(3)まで話が進み、その詳細を一番右側にメモのように書いています。上記の①は下記では消してますが、そのまま残しても大丈夫です。
そして、章が次に移ったなら、中央と一番右側を全て消して、一番左側に追記します。
下記の例は、レクチャーが、二章に移って「(1)自己に気づく」の話し始めたホワイトボードです。
これは、インストラクションの基本である、「全体」→「部分」→「全体」の原則をレクチャーの進め方について遵守したやり方です。
ホワイトボードでは、左側が「全体」で右側が「部分」となります。
このようにホワイトボードを構成することで、受講生は、常に全体の中で、今、何を話しているかという「全体」を理解しつつ、詳細や具体的な話である部分の説明を聞いています。さらに展開していくときは、全体(左側)に話を戻して、次の話を展開して行くという基本を実現しています。
常に一番左側は消され事なく残り、一番右側は、いつも書かれては消され、また書かれるという忙しいエリアです。
章立てが少ない時は、ホワイトボードを二分割して使うという方法もありです。
パワーポイントのデザイン
パワーポイントの場合も「全体」「部分」の原則は同じです。ただ、「全体」を見せながら「部分」に展開するのはストーリーや章ナンバーしかないので、受講生が「今何処にいるか」道に迷わないようにリードすることが求められます。
パワーポイントで最も重要なことは、一枚のシートの過剰な情報量です。要は載せ過ぎに注意ということです。
人は、他者の話すスピードの三倍で思考しています。ですからホワイトボードに書きながらレクチャーしても受講生はゆとりです。
しかし、、パワーポイントは、突然多くの文章や図、画像を表示できます。このとき、受講生はある程度表示内容を理解するまで、レクチャーは聞いていません。
また、パワーポイントの文章を講師が読んでも、受講生の頭の中は退屈なだけです。
ですから、パワーポイントは、箇条書き、シンプルな図や画像だけにして、メモができる余白を作りましょう。
画像も写真のような精緻なものは思考を止めてしまいます。デフォルメしたものが良いでしょう。
これらの受講生の反応は実験室で証明されています。
レクチャーの組立てとトレーニング法
レクチャーの組立ての基本は、ホワイトボードのところで案内したものが基本です。
しかし、慣れない人にとっては難し過ぎますので、ここでは、誰でもレクチャーが上達する方法を紹介します。
まず、三分間で話せる「まとまった話」をつくり、レクチャーできるようにします。
三分間が難しければ一分間で一テーマをレクチャーできるようにします。
一分間のレクチャーを三つおこなうと三分間になります。
初級は、三分間を一単位にして一テーマをレクチャーできるようになったら、三テーマでほぼ10分のレクチャーになります。
そうすると、ホワイトボードの一番左側の1章を書いて、中央に三項目書くレクチャーが完成です。
一章10分のレクチャーで、三章の内容をレクチャーすると30分となります。
次に中上級になると、一テーマの最小単位を5分でつくります。
そうすると、一章10分バージョンと15分バージョンができます。
三つの章について話をすると45分。中級者になると、事例が長くなって、一時間近く話す事になるでしょう。
これが初級者から中級者へのステップアップ法です。ここまでくれば、3分、5分、10分、15分、30分、45分のどのパターンでも与えられた時間でレクチャーができる事でしょう。
初級者は、話す事が無くなって、レクチャーが早く終わってしまうことを恐れます。中級者は、知らないうちに事例が長くなりレクチャーが長くなります。
次のステップは、如何にして時間内に収め、レクチャーを充実させる事ができるかということが課題となります。この課題を乗り越えれば、あなたは上級者と言えるでしょう。
実習や討議の提示法
よく見かける失敗例は、提示のときに、喋りすぎて、なかなか実習に入れないケースです。
基本の提示法は、パワーポイントに、下記の3〜4点を明示し、読み上げるだけにします。(目的は実習の性格によって記載しない場合があります)
- 実習の名称
- (目的)
- 手順・時間・(ルール)
- 実習の成果物(イメージ)
実習の間、上記パワーポイントは、全員がいつでも見える状態にしておきます。
この状態にしておく事は、非常に大事で、受講生が実習に集中してくると、手順や時間を忘れてしまいます。
また、提示の初期段階では、2、30%の受講生は理解してないことも多々あります。その時に「読めば分かる」という状態を作っておかなければ混乱を招き、他の受講生の集中力を落としてしまいます。
自己の内面を見つめるトレーニングのために
ここからは、スキルトレーニングでない、レジリンストレーニングの「自己理解」の促進に関するトレーニングについてです。
レジリンストレーニングの内容は、「イントラ・コミュニケーションのスキル」の習得と、「自己理解と気づき」の促進という二つが詰め込まれています。ですので、二つの学習が同時に並行して進んでいます。
ただ、表面的には、スキル習得のセッションしか見えないかもしれません。しかし、あらゆる局面で自己に気づくことができるコンテンツを扱っています。
レジリエンストレーニングのコンテンツの概要はこの米軍で実施しているトレーニング内容のリンクを参照して下さい
自分の経験を通して、その時の感情と思考を再現し、そのものを題材にしつつ、自己の内面を見つめ、思考プロセスすら変えようとするスキルが研修のコンテンツなのですから、新しい自己に気づいたり、自己概念を再構築しても何も不思議ではありません。
トレーニング自体はそのように作られていますが、受講生自身に「その体験ができるまで深められるか」という課題が残ります。
何故なら、トレーニングの中では、過去の自分を題材にしているため、「自分の見たいものしか見つめていない」「自分が受容できる範囲の情報しかない」という現実があり、その体験や思考の組立てについても、自己の思考の範囲に止まってしまう可能性もあります。
これは、脳の特性ですので、ある程度仕方ないことでもあります。
なかなか自分自身を客観視するのは難しいですね。
カウンセラーや臨床心理士という立場であれば、一対一という環境なので、その中に立ち入ることができますが、教室の中では難しいですね。
では、どうするか。
それは、参加者と講師が共通の体験を教室でつくり、「今、ここで(here and now)」の話題で対話できるようにしていく」ことで、受講生個人の思考パターンに介入できるようにすることです。
受講生自身の体験に対しては誰も手出しできませんが、「ここ(研修の中)で、今、起こったこと」については、そこにいた人であれば様々な見解を述べることができます。
トレーナーの課題は、そのようなカリキュラムを準備し、その介入やフィールドバックをリードするだけでなく、受講生相互にそのような関わりができる関係と規範をつくることです。
例えば、受講生のやり取りの中で、その中の一人の意見がトレーナーである自分の意見に近いものであれば、すかさず「そうですね」「私も同じ意見です」というようなやり方もあります。
また、特定の個人に向かって意見やコメントをするのではなくグループや受講生全員に対してコメントするという方法もあります。例えば「他の研修では、・・でした。しかし、今回は、・・」というコメントです。
さらには、レクチャーの中で「今起こったこと」を過去の事例のように話すというものもあります。
トレーナーの指示的行動が多くなれなるほど、受講生が不自由になり自由度が下がります。同時に受け身になり、指示待ちになります。
トレーナーのスタイルの指示度が高い順に以下のようになります。
- ティーチング(講義)
- ファシリテーション
- 問題解決的(問題解決ツールを提供)
- 触媒的
- ソクラテック(質問者)
知識・スキルのトレーニングは1や2を多用することになりますが、気づきを促し、"hear and now"のアプローチをおこなう場合は4か5のアプローチが必要になってきます。
しかし、1や2に慣れた講師は4や5のアプローチをおこなうことを恐れる傾向があります。その理由は、彼らは「ノーコントロールになるのではないか」という恐れを持っているようです。
レジリンストレーニングのカリキュラムを作成する
さらに、トレーナーは、研修の運営だけでなく、レジリンストレーニングをデザインできなければなりません。
具体的には、半日ならどのような内容を、どうするか。1日なら、二日なら、どのような内容を、どのような順に展開するかなどを考える必要があります。
トレーニングは、講義・実習(討議)・コメントや関連講義のようにこれ以上細分化できないある程度固まりがあります。これをモジュールと呼んでいます。
モジュールは、ステップとは異なり、順番は自由で、入れ替えもありです。
全体の時間とトレーニングのアウトプットとの関連でメインのモジュールをどれにするか、それぞれのモジュールの効果性をどのように高めるかということも重要ですが、トレーニングの効果性を高めるためるには、各モジュールが、どのような影響を受講生に与えていくかというシナリオ立てが最も重要なことです。
これらの内容を全て含んだものがレジリンスのトレーナーズトレーニングです。