ABC理論がレジリエンスに効果を発揮するための脳科学的説明
2017/12/27
レジリエンスをトレーニングするとき、是非知っておいて欲しいABC理論の正確な心理学的説明と、脳科学の裏付けを知って、効果的なアプローチを実施しましょう。
ABC理論の内容参考リンク:心理学での位置づけ知ってる?認知療法のABC理論
目次
ABC理論のスゴイところ
純粋のABC理論は、アルバート・エリスの「論理療法」のものです。
内容は、A⇒B⇒Cにおける「不合理な信念B(イラショナル・ビリーフ)を識別・明確化し、それに対して論理的な検討(反論)をおこない、それを修正する」というものです。
この第一段階として、「出来事Aから感情・行動Cへの思考の流れ(プロセス)を言葉に置き換える」ということを行います。
これは、一見、非常にシンプルで簡単なことのように見えますが、「曖昧な思考」を「言葉」に置き換えるということで、感情から思考を切り離そうとしています。
思考における言葉の役割は、この参考リンクから:論理的に考えるとは、言葉で考えること!
少なくとも、直感的イメージである思考を「論理」という道具で修正することを可能な状態にしたのです。やはり天才的ですね!
何が脳で起こっているか
実は、この「論理療法」ておこなっていることを、脳科学から脳の働きを説明すると、非常に複雑なことをしています。
レジリエンストレーニングのABC理論の演習で最初に行うものは、軽い感情反応のものを扱うでしょう。
「軽い」というのは、感情反応の大小ではなく、比較的自分でも分かりやすいという意味で、「意識しやすい」「意識化されている」ものという意味です。
したがって、この段階で扱わられるものは、ほぼ「前頭葉(前頭前野)」で考えられた経験です。
脳科学的に正確に言うと、感情(エモーション)反応を起こした扁桃体※の思考を前頭葉が再評価したものを表現したものです。
※扁桃体は、正確には、「扁桃体を中心とした大脳辺緑系の脳」のことです(下図左の脳幹上部の白い部分および下図(下段/右)中心部)<扁桃体は、それぞれの耳の後ろにある下図(下段/右)>
「大脳辺緑系の脳」の働きの理解が、レジリエンスの決め手です。
一番古い脳(脳幹周辺)
脊髄の収束部分である脳幹のある大脳基底核の古い脳と言われる部分で、生命維持を担当し、本能的反応をおこないます。外界の刺激対して、「生命維持や種の保存のためにどのように対応するか」ということが遺伝子によってプログラムされています。何に反応するかは、大脳辺緑系の脳が後天的に学習します。
中間の古さの脳(偏桃体周辺)
大脳基底核の上位にあるのが扁桃体を中心とした大脳辺緑系の脳です。この領域は、原始的な感情(エモーション)を扱います。(反応の詳細は、上記参考のリンクをお読み下さい)
さらに、大脳辺緑系の脳は、生命に関わる反応的思考と、それに関する記憶を持っていると考えられています。
具体的には、外界の刺激が、過去の生命の危機に瀕した記憶と一致した場合、即座にエモーションが発生し、身体が反応する仕組みになっています。
要は、命に関わるような出来事を記憶しておいて、即座に反応する仕掛けになっているということです。
ただ、原始的な脳のため、記憶はビデオのように克明ですが、断片的なもので、その断片的なビデオが脈略なく周辺に何処となく保存されるため、一貫性はありません。ただし、そのビデオには、エモーションがセットになっています。
一番新しい大脳(前頭前野)
「大脳(前頭前野)と側頭葉」が一番新しい脳だということは誰でも知っています。
最も古い脳の「脳幹のある大脳基底核」から「扁桃体を中心とした大脳辺緑系の脳」「大脳(前頭前野)と側頭葉」と、古い脳を新しい脳が包み込むように、3つの脳が、三層構造になっています。
今回の主役は、「扁桃体を中心とした大脳辺緑系の脳」です。
怒り・恐怖・悲しみ・不安
エモーションは、大きく快感と不快感にわかれます。
快感とは、楽しさや満足感といったものですが、感謝や希望というポジティブ感情とは異なる原始的なものです。
不快感は、怒り、恐怖、悲しみ、不安などが、あります。これらは本質的に同じものです。
「怒り」は、生命の危機をもたらす事実に対して、「自分の力で変えることができる」と考えたときのエモーションです。そのため、身体か攻撃態勢になり、積極的にその事実を変えようとします。
「恐怖」は、生命の危機をもたらす事実に対して、「自分の力では変えることができない」と考えたときのエモーションです。そのため、そのことを避けようとしたり、逃げ出そうとしたりします。もし、避けられないと考えた場合は、被害を最小になるよう準備します。極端な場合は、気絶し、苦痛を感じなくすることもあります。
「悲しみ」は、生命の危機をもたらす事実に対して、「受け入れざるを得ない」と考えたときのエモーションです。その事実を自分で変えることもできず、また、その事実から逃げ出すこともできないというときに感じるあきらめの感情です。
「不安」は、生命の危機を感じるのですが、なにが危機と感じるか、どうしてそう感じるか、わからない状態です。したがって、不安の対象や理由が明確になったときには、怒りや恐怖、悲しみなど、他のエモーションに変化します。
不安は恐怖に細分化することで対処可能になります…参考リンク:漠然とした不安に対処する方法
抑圧記憶を消す方法/脳科学的説明
「ABC理論の演習」に話を戻すと、
反応を起こす出来事Aに対して、大脳辺緑系の脳のビデオ記憶に反応するBと、エモーションCが起こり、前頭葉に情報が行く前に身体が反応します。(という経験を、演習で思い出してもらうことがねらいです)
この一連の反応を、言葉で置き換えていく活動が、ABC理論の演習の第一段階です。そして、その演習は、前頭葉でおこなうのです。しかし、言葉に置き換えたとしてもエモーションが再現されます。
基本的に、前頭葉は、大脳辺緑系の脳とは違い、様々な思考がおこり、大脳辺緑系のエモーション反応を抑えます。
ABC理論の演習では、前頭葉が、エモーション反応を押さえつつ、大脳辺緑系の反応的思考を再評価し、論理の力を使って「生命の危機でない」と思考します。
この瞬間、前頭葉が相当のエネルギーを使うのが分かりますね。
一旦、生命の危機でないと判断されると、大脳辺緑系の記憶を持ち続ける必要が無くなりますので、その部分のビデオは記憶から消されると考えられていました。
しかし、1980年代後半に、「このビデオ記憶は消えないが、ネガティブ感情は異なった感情に上書きされる」という研究が発表されました。
ここの記憶は、生まれた直後からの生命の危機局面の学習による記憶です。そのため言葉を学習する前から既に始まっているためビデオのような記憶として保管されます。
また、幼少期は、両親や家族から離れる事自体が死を意味します。そのため、幼少時代の学習は思いもよらないものが多々あります。
既に触れたように、大脳辺緑系の反応的思考を、前頭葉で容易に再評価できるものは、軽いものだけです。
大脳辺緑系の記憶には、トラウマや無意識の「抑圧」された記憶も同じところにあります。
まとめ/レジリエンスの決め手
この大脳辺緑系の生命を守る脳の記憶の更新(前頭葉の再評価アプローチ)が上手くおこなえるかどうかが、レジリエンスのひとつの決め手だと考えています。
何故なら、
不適切な大脳辺緑系の学習とその記憶によって、
私達は、冷静な思考ができず、
一時的に、社会的に不適応反応を起こすだけでなく、その反応が新たな不適応を起こす
という悪循環を作り出し、
私達の様々な可能性を制限してしまうからです。
少し違ったアプローチのアーロン・ベックの話しは、ABC理論?認知のゆがみとスキーマ:アーロン・ベックを参考にして下さい。