フロイトの「自我」「エス」「超自我」を、脳科学でサクッと検証
2017/12/27
フロイトの「自我」「エス」「超自我」の脳の中での存在は、脳科学でどのように取り扱われているでしょうか。
フロイトの「超自我」の存在はあるか
フロイトの考えた心の構造は、「エス」という本能の塊と、倫理観の守護「超自我」、その両者を調整し、その結論を行動に導く「自我」の3つで構成されています。
フロイトの心理構造についての参考リンク:フロイトの精神分析の理論をどっぷり
しかし、「超自我」は、脳科学的に特別な脳の部位が担当しているわけでは無さそうです。「超自我」の説明は、フロイトに、キリスト教の思想が強く影響したのではないかという説もあります。
脳科学の基礎(脳の三層構造)
まずは、脳の三層構造を思い出して下さい。古い順位①~③と並べましたが、①を包み込むように②③があります。
①脊髄の収束部分である脳幹のある大脳基底核(生命維持反応)
②扁桃体を中心とした大脳辺緑系の脳(エモーション、生命危機関連の断片的記憶)
③前頭前野がある大脳、側頭葉(論理的、シミュレーションの脳)
<参考>
大脳辺緑系の脳がもたらす生命維持的反応の仕組みの参考リンク:ABC理論がレジリエンスに効果を発揮するための脳科学的説明
目、耳等の五感から入った情報が、どのようにエモーションを呼び起こしつつも、社会適応する行動に落ち着かせていく脳の反応プロセスの参考リンク:脳のミカニズムを知らないとレジリエンスを語れない
この新しい脳が古い脳を押さえつけコントロールするということが知られています。
「エス」は存在した!
フロイトの「エス(イド)」はまさしく、②の大脳辺緑系の脳のなせる業です。
①大脳基底核の脳は、赤ちゃんが母親のおなかの中にいる生命活動(成長)とともに構築され、体内に酸素が少なくなってきたら脈拍を上げるなどの生命維持のための基本的な反応プログラムがインストールされていきます。
赤ちゃんは、出産によって、初めて外界と接し、膨大な学習をおこなっていきます。そのメインは、自分の命を守るための学習です。
例えば、赤ちゃんにとって、母親と離れることは、死に直結する事件です。ですから、目も見えない赤ちゃんは、母親の体臭や体温、声のトーンを記憶し、それが薄れることを危機と感じ、泣くことで警告を発するようになります。
生命危機に関する学習がどんどん蓄積され、次に起こる危機に対して即座に対応できる準備を、①大脳基底核の脳が整えていきます。
そして、その反応は、②扁桃体を中心とした大脳辺緑系の脳へと伝達され、エモーションという原始的な感情を発し、身体が反応していきます。
同時に、この引き金となる記憶は断片的な記憶として、偏桃体や海馬のあたりにしまい込まれます。次に同じようなシーンに出くわした時に即座に反応できるよう写真のように正確に記憶されます。しかし、その記憶は断片的で、一貫性はありません。この写真の記憶が夢に使われている可能性は高いと思いますが、まだ検証されていません。
また、この記憶を呼び起こしたときは、エモーションが必ず付いています。これが普通の記憶との違いといえるでしょう。命を守るために身体反応を即座に起こす本能的思考をおこなうためには、エモーションは必須ですから。
これは、ダニエル・カーネマンのヒューリステックス(直観的思考)とは異なります。参考リンク:ノーベル賞を受賞したカーネマン博士の直感的思考と認知バイアスの話
「自我」は発達していく
生後半年ごろから、お母さんとは別の自分という認識を持ちはじめ、自我が生まれてきます。また、同時期に大脳皮質の神経発達が始まります。
まさしく、「自我」は③前頭前野がある大脳の世界の産物です。
ただ、最近の研究で、「扁桃体は.バリバリのエスの本能的判断だけでなく、シンプルな自我的判断もおこなっている」というものもあります。
まだまだグレーゾーンがありますが、単純化して③前頭前野と②扁桃体の対立の構図が分かりやすいですね。
「自我」の深堀
「自我」について何度か紹介してきましたが、分かりにくい概念で、哲学と心理学の言葉です。ただ、微妙に定義する人によって意味の範囲や説明の仕方が違います。
私にとっては、発達心理学が使う「他者とは別の自分」としての認識という「自我」の説明がしっくりときます。
また、パーソナリティという「他者との関係や違いによる説明」とは違って、「自分が認識している自分」という説明もあります。(フロイトの説明とは違いますが)
パーソナリティは、「体験する自己」という説明もあります。
そして、カールロジャースは、「自己イメージ」と「体験する自己」とのギャップが心理的障害の原因となるという主張を展開します。