瞑想の効能と脳の動きを脳科学で切ってみる
2017/12/26
今回は、最近、効果が大きいと、もてはやされている瞑想について、どのようなメカニズムになっているのか、脳科学で切ってみました。
目次
瞑想の効能を脳科学で実証実験
最近1〜2年、やっと研究室での瞑想の実証研究が専門誌や新聞に載るくらいですから、今までは、瞑想のこは、ほとんど経験値だったということですね。
Biological Psychiatry誌(2016年1月号)で発表された研究内容によると、「今この瞬間自分が体験していることに意識を向ける」という「マインドフルネス」や瞑想が、プラセボ効果でなく、実際に人々の脳の状態を変えたり健康状態を改善している可能性があるとのことを検証しました。
参考リンクニューヨークタイムス2016.2.18
上記雑誌より抜粋、引用
カーネギーメロン大学のヘルス&ヒューマン・パフォーマンス研究所が3日間の瞑想実験を行い、その後4ヶ月間の追跡調査結果を発表しました。
瞑想の研究で難しいのはプラセボ効果(被験者の思い込み効果)の影響があることです。
今回の研究では、被験者を「正しく瞑想の方法を学んだチーム」と「正しく瞑想の方法を学んだと思っているが実際は間違った方法を教えられたグループ」に分けて実施しました。
被験者として選ばれたのは失業中でストレスを抱えた男女35人。被験者らは最初に血液検査と脳スキャンを行った後に2つのグループに分け、一方は正しい方法で、もう一方は「リラックスしストレスをなくす」と伝えられニセの瞑想を行いました。
例えば、このとき両方のグループはストレッチするように言われたのですが、
正しい側は、例え不快なものであっても自分の体の変化に注意を払うように伝えられました。
ニセ側は、リーダーがジョークを言ったりおしゃべるすることが推奨されたりして、体に対して注意が払われないように仕向けました。
3日後、参加者全員が研究者に「気分がリフレッシュされ、失業のストレスに耐えるのに役立った」と語りました。
脳スキャンの結果は、脳のうちストレス耐性に関連する部位が活発化し、その他のエリアが穏やかだったのは、正しい瞑想の方法を学んだグループのみでした。
さらに4カ月後、正しい瞑想の方法を学んだグループは、瞑想を続けている人が少なかったにも関わらず、ニセの瞑想を学んだグループよりも血液検査で炎症のレベルが低いという結果もでました。
また、
カリフォルニア大学の研究グループの実証実験では、瞑想を習慣化していると、脳の神経細胞が集合する「灰白質」が加齢によって小さくなるスピードを減少させて行く事が分かっています。
フロンティア・イン・サイコロジー2015年の1月号より
灰白質の活動が増えれば、感情が前向きになり、情緒も長期的に安定し、日常的な集中力も高まると言われています。
瞑想における脳の動き
科学者たちはMRIを使って、瞑想中の脳内でなにがおきているかを調べてみると、瞑想中の脳は普段行っている「情報処理」が停止している状態であるという事が、2000年代の早い時期に分かってきました。
それは、副交感神経が優位になり、「ベータ波」が減少するということでした。そして、その傾向は、はじめて瞑想を行った人にも見られました。
脳内の中で、瞑想の最も影響を受けていると言われるのが、「島皮質」で、瞑想を繰り返す事によって「島皮質」が部位が厚くなるというのです。
島皮質の厚みは通常40歳を超えると徐々に薄くなっていくと言われていますが、日頃から瞑想をしている人の島皮質は、他の人に比べて、その厚さが増しているとのことです。(マサチューセッツ総合病院:サラ・ラザール博士)
「島皮質」が身体の中を感じてる
島皮質(とうひしつ)は大脳皮質の一部ですが、大脳と頭頂葉、側頭葉の間のシワの奥にあり、扁桃体の上ぐらいに位置しています。
扁桃体の役割や頭の中の位置の参考リンク:その瞬間!脳がハイジャックされ、感情に支配される
島皮質は比較的古い構造と考えられていて、味覚、内臓感覚、自律性調節 などの、基本的な生存に必要な機能を担っています。
具体的には、島皮質は、飢餓や渇望といった身体状態を作り、食べ物や薬物への衝動を発生させます。 また、薬物常習者が薬物の渇望を引き起こすような事も行い、報酬系の働きを司っているようです。
また、島皮質は、脳幹を通じて、内蔵からの神経情報を扱っており、身体の内側の感覚を感じ取っている脳といえます。
瞑想は、脳への働きかけ
瞑想をすると外の世界に対する感覚が薄れる一方で、内なる感覚に対して、より鋭敏に感じるようになります。血管をドクドクと流れる血液の拍動、リズミカルに繰り返される呼吸など、身体の内部の感覚を感じるようになります。
この感覚は、頭皮質の情報です。
瞑想で身体の内部世界との対話を繰り返しているうちに、島皮質の活動が盛んになり、そのうちに脳組織が拡大していくということです。
このことから、瞑想を通じて自分の身体状況を把握し、瞑想を通じて自分の内蔵に働きかけることが可能だということが分かります。
そのため、瞑想を通じて心を見つめるというより、身体の内蔵感覚を刺激するというのが大きな目的で、それによってホメオスタシスの力をアップさせようとしています。
また、呼吸法を取り入れることで、体内を感じるだけでなく、体内への働きかけとその反応を観察できるようになります。
心臓の動き等の自立神経は脳幹がコントロールしていまずか、その中で唯一呼吸だけが、意識してコントロールできるものです。したがって、呼吸が、私達にとって、脳幹への唯一の入り口なのです。
そして、呼吸は、腹式呼吸である必要があります。内蔵も、また、記憶やエモーションに大きな影響を与え、脳幹に直結しているからです。
瞑想の効能
具体的な瞑想の効能はたくさんありますが、代表的なものは、以下のようなものです。
- 集中力のアップ
- ストレスの軽減
- 不安や痛みの軽減
- 記憶力のアップ
- 創造性のアップ 他
集中力のアップ
瞑想とは「集中すること」、そして「集中が切れたことに気付くこと」の脳の訓練です。その結果、瞑想をしていない時の集中力をも高められます。
ストレスの軽減
プレッシャーの大きい状態でもストレスに負けずに行動するには、マインドフルネス瞑想が効果的であることが2012年に実証研究で明らかになっています。
不安や痛みの軽減
自分自身および自らの体験にかかわる情報を知的に処理し判断する「内側前頭前皮質」があります。
この皮質は、身体感覚および脳の恐怖中枢と神経経路と結びついていて、恐怖や動揺を感じ取ると、そこを通じて、大脳全体に、恐怖心や危機感が発生させます。
しかし、瞑想することで、この神経経路の結びつきを弱くすることができます。そのため、自己中枢が大騒ぎするような刺激を受けても、強い反応を起こさなくなるのです。
この結びつきが弱まることで、「内側前頭前皮質」の知的に判断する脳は、エモーションに左右されにくくなる分、身体感覚情報を入手しやすくなっていきます。
その結果、恐怖や動揺を感じても、冷静に判断を下すことができるようになるのです。
痛みも恐怖の一因ですが、この痛みに恐怖を感じれば、身体は、痛みを倍化させて、危機を私達に知らせることになります。
しかし、上記のようにある程度恐怖をコントロールできれば、痛みは緩和される(拡大しない)ことになります。
記憶力のアップ
ハーバード大学医学部のキャサリン・ケリー博士は、マインドフルネス瞑想を実践する人は、しない人よりも、気を散らす原因となるものを遮断し、生産性を向上させる脳波を調整する力があることを発見しました。
邪魔にもの遮断するこの能力によって、「すばやくものを覚え、新しい情報が吸収できるのだ」という発表です。
創造性のアップ
瞑想が創造性に効果がある実証研究はたくさんあります。
その中で、オランダにあるライデン大学の「その瞬間に移ろう思いなど」を観察する「オープン・モニタリング」瞑想の研究が有名です。
実験では、フォーカス・アテンション瞑想と、オープン・モニタリング瞑想の2種類の瞑想を被験者に行ってもらい、その後の創造性の向上具合を確認しています。
オープン・モニタリング瞑想を行った被験者では、新しいアイデアを問う課題で成果が向上していることが確認されたのことです。ざんねんながら、フォーカス・アテンション瞑想は、変わらなかったそうです。瞑想の種類によっても、効能は違うみたいですね。
注意点
ただし、創造性については異論があります。創造性の定義の違いとも言えますが、頭にインプットした様々な情報を、頭の中でいろいろと組み合わせたりする思考実験をおこなう人の中には、瞑想が合わない事もあるようです。
瞑想によって自動思考を止めることができますが、それによって思考実験が止まってしまうようです。
盲信しないで、自分に合う、合わないを判断する必要があるようです。
まとめ
瞑想中は、エモーションをつかさどる脳の扁桃体の活動が弱まるそうです。
瞑想を継続している人に「善人」「悪人」「普通の人」のうちどれかひとつの写真を見せたところ、扁桃体がつよく反応したそうです。。
しかし、反応の大きさとは逆に、対象者たちは集中力を保ち、見せられた写真に対する感情的な反応を抑えることができたそうです。。
2008年には、「他人が苦しんでいる声を聴かせる」という別の実験が行われました。その結果、瞑想しない人と比べて、定期的に瞑想する人のほうが、他者への共感に関連する脳の側頭頭頂接合部が大きく活性化していることがわかりました。
やはり、瞑想は、エモーションや理性を司る各脳の働きを強化し、各脳の、より健全な関係を保持することに、非常に良い影響を与えているようです。