脳のミカニズムを知ってパニックを乗り越える
2020/11/11
今回は、脳科学からレジリエンスについてふれます。何故なら、この脳のメカニズムを知るとレジリエンスを高めるメカニズムが理解できるようになります。
目次
脳をだますことで、耐久力を高める
うつ症状になったり、ストレスから様々な病気を発症する多くの原因は、脳が自分の身体を外敵から守るために自分の身体をコントロールしていることにあります。
具体的には、原始の時代、外を歩いていると熊が目の前に現れたとき、あなたは、どのような身体状態になりますか?
身体は、完全に戦闘態勢で、ドーパミンからアドレナリン全開、いつでも動けるように筋肉は緊張し、脈は早くなり、血圧は上がり、視野が狭くなり、今に集中して、次の瞬間に備えることでしょう。
これが、ストレス状態ということです。太古の時代は、熊が去ってしまえば、この状態からは解放されます。しかし、現代社会の問題は、そう簡単には直面した問題は無くなりません。
仕事のトラブル、人間関係、家族、住宅ローン、次から次へと問題が発生し、中には何年も解決にかかるというものもあります。このような状況下で、上記のような戦闘態勢を取り続ければ、身体は、崩壊してしまいます。
脳というのは、「生き残る」ということに対して極めて優秀な器官です。自分が危機と感じることに対して、意識させることなく、心臓の心拍を早めるのと同じようなことを、身体の各方面で自動制御をするのですから。
ただ問題は、人間が生命の危機になる状態には簡単になりません。そんな「安全な社会」が現代です。しかし、脳は依然として安全装置を持ち続けているため、新たな問題を起こしてしまうことに繋がっています。
レジリエンスは、この「暴走する脳を如何にコントロールするか、また、騙すか」という事が課題と言っても過言ではありません。
刺激から感情を発生させる脳のメカニズム
コンピテンシーを研修で開発する方法に下記の紹介をしました。
①刺激→②知覚→③判断→④認知→⑤生物学的反応→⑥感情→⑦予測的思考→⑧行動・発言
刺激から認知へ
これを脳科学的に説明すると、目や耳の五感から各神経を通じて側頭葉に情報が入ります。映像や音、匂い等の情報を過去の蓄積された情報と照らせ合わせていきます。これが①刺激→②知覚→③判断へと進むプロセスです。この情報は言語脳ともやり取りをして判断していきます。
ある動物を見て「犬」と判断したとしましょう。犬というものは、様々な大きさもあり、色も、毛並みも違うし、形態も大きく違いますが、何故か猫とは区別できてしまいます。このあたりの判断も側頭葉でしています。この段階になると④認知ということになります。
外国語のヒアリング力もこの④認知のレベルです。皆さんが聞いている日本語もほとんど正確には聞こえていませんが、推測され認知されます。
また、絵を描いたりする能力は、空間認識の能力と言われいています。
中には、知覚されているが、認知されてないということもあります。ただ、認知されたからといって意識化されたかどうかは、また、別問題です。
認知から感情(エモーション)へ
①刺激→②知覚→③判断→④認知→⑤生物学的反応→⑥感情→⑦予測的思考→⑧行動・発言
④認知されると側頭葉から自律神経の最高中枢である視床下部、脳幹(脊椎の最上部)へと情報が伝わり、脊椎を通じて内蔵、筋肉へ。その後、内蔵からの反応が脳幹へ身体的反応として帰って来て、視床下部からドーパミンを始め様々な脳内分泌物が放出され、偏桃体から原始的な感情(エモーション)が発生します。これが⑤生物学的反応→⑥感情です。
脳幹は、呼吸や心拍、消化、睡眠などを扱う生物維持機能の方が有名ですが、それだけでなく、エモーション発生源であったり、緊急時のプログラムも内蔵されています。
無意識に脳が反応する仕組みと改善法の参考リンク:ABC理論がレジリエンスに効果を発揮するための脳科学的説明
エモーションは止められない
心理学では、エモーションは、一時的で、強い感情で、モードやフィーリング、気持ちとは区別します。ただ学者によってエモーションの定義が異なり統一的定義はハッキリしません。
ただ言えることは、⑥感情(エモーション)は、身体的反応が起点となるため、発生すると、自分ではコントロールが難しく、止めることができないということです。
②知覚→③判断→④認知→⑤生物学的反応→⑥感情→⑦予測的思考→⑧行動・発言
また、エモーションは、視床下部から脳内に分泌物を出すことで、他に伝達して行きます。伝達経路には、神経と分泌物しか有りません。神経は、特定の所と特定の所しか結ばれていませんので他には全く影響を与えません。しかし、分泌物は一度にたくさんの所に浸透して行きます。
一度分泌したものは、それを「再取り込み」(回収)しない限り消すことができず、継続します。これも、すぐに止められない理由です。
レジリエンスを高める初歩
したがって、レジリエンストレーニングでの初期のテーマは、「発生した後のエモーションをどのように扱うか」です。
もちろん、カウセリングでは④認知の段階から変えようとしたり、判断基準となる原体験記憶を書き変えたり、反応の仕方を変えていこうとします。トレーニングで、ここまで深く入るためには、エンカウンターやTグループの手法を持ち込む必要があります。後のブログで紹介しましょう。
私がおこなうレジリエンストレーニングでもABC理論を活用したセッションはあります。しかし、初期段階では、認知を変えることまでは求めていません。この初期段階の目的は、前頭葉の活動による「再評価」の強化です。この点の解説は、下のリンク参照。
治療とレジリエンスの違いの参考リンク:レジリエンスとコーピング
エモーションのイメージ図
⑥感情(エモーション)について、もう少し詳しく。
下の図は、左下で刺激が起こって、瞬時に感情が高まったという図です。怒りの感情のケースが分かり易いでしょう。
エモーションは、時間と共に急上昇。しかし、時間が経過すると少し緩やかに下降します。でも、刺激の前の状態には戻りません。少し興奮ぎみのモードが続きます。
悲しみ等のエモーションなら、図は下に反転します。
今回は、⑥感情のところで終了です。続きは、脳がハイジャックされるとき参照
レジリエンスを高めるトレーニング
下の図のところを、まず手がけようとしたのがレジリエンストレーニングの初歩です。
現在のトレーニングでは、脳が過剰反応しないように左の矢印の力のインパクトを弱めるために認知に関わる「二次的思考」を作り出すことを試みようとします。(これは、アーロン・ベックの理論ではなく、1980年後半から2000年のうつ病治癒者の研究より出た理論)
「二次的思考」は、上記の「前頭葉による再評価」と同じです。
さらに、矢印の力に影響を与えているのは、思考だけでなく、モードを左右している「気分」があります。この気分に思考に左右されないようにする「注意の向け方」をトレーニングする「技法としてのマインドフルネス」を付加していくレジリエンストレーニングが多くあります。