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認知心理学

アルバート・エリスの論理療法(ABCDE理論)とアーロン・ベックの理論の違い

2018/06/11

コラム法の原点のアルバート・エリスの理論をチョット詳しく紹介し、混乱しがちなアーロン・ベックの理論との違いにも触れます。

アルバート・エリスの治療法の正式名は、Rational emotive behavior therapy ; REBTと1993年ごろから正式名称になったようです。

本人は、当初1955年に発表した「論理療法(Rational therapy)」と言う名前が気に入ってたようです。60年代には、Rational-emotive therapy(RET)と呼ばれていて、日本語訳も大分呼び名が変わって混乱したみたいです。

ちなみに、アーロン・ベックの認知療法の本が出てから、二人の理論をまとめて語られ、一緒に説明されていることが多々あります。

目次

認知療法の概要

まず、認知療法(cognitive therapy)は、「認知の傾向や思考」によって「感情や気分、行動、生理的な面」が決定するという認知理論(認知モデル)を前提としています。

[speech_bubble type="think" subtype="R1" icon="ke.jpg" name="認知モデル"]自分の認知で、自分の感情や行動がきまる?![/speech_bubble]

認知療法で認知(cognition)とは、外部の出来事や他者の言動をどのように解釈するかという情報処理過程の中の「物事の捉え方、解釈、その考え方」のことを「認知」と言っています。

治療のためには、認知理論を使って、クライアントの苦痛や問題(抑うつ感・不安感・怒りの諸症状)を理解することを、「認知的概念化」「認知的定式化」と言います。

自分の思考や感情などを自己観察し、ワークシートに書き込んでいく作業を通じて認知的概念化をする手法を「コラム法」と言います。

この名前の由来は、記事のコラム欄から来ています。 コラム法の詳細はこちらから

論理療法

正式名称:論理情動行動療法(REBT:Rational Emotional Behavioural Therapy)を創始したのがアルバート・エリスで、ABC理論と呼んでいます。

ABCに足して、論理的な反論:D(Dispute)と効果的新ビリーフ:E(Effective New Belief)を加えてABCDE理論として解説されることもあります。

論理療法(REBT)というのは、

不適応な感情パターン(行動パターン)の原因となる「非合理な信念(irrational belief)」を、

現実的な根拠に基づく「合理的な信念(rational belief)」に変えていこうとするものです。

アルバート・エリスのABCDE理論は「人間の感情や行動」がどのように発生するかというメカニズムを、理解しやすい因果関係で説明しています。

生理学的な条件反射や強化要素としての報酬(罰)によって行動の発生を説明した行動主義心理学の条件づけ(オペラント条件づけ)との違いは、

[speech_bubble type="think" subtype="L1" icon="me.jpg" name="行動主義"]行動は、報酬や罰という外的要因で決まる! [/speech_bubble]

行動主義心理学は「外的要因」が重視されているのに対して、アルバート・エリスの理論は「認知過程(内的な情報処理)の要因」が重視されている点です。

[speech_bubble type="think" subtype="R1" icon="ke.jpg" name="認知モデル"]行動は認知という内的な情報処理の仕方で決まる! [/speech_bubble]

この認知モデルの方が、感情や行動を自分の認知の仕方や自らの意志でコントロールできることを意味しています。

[speech_bubble type="think" subtype="R2" icon="ke.jpg" name="認知モデル"]感情や行動は、自分でコントロールできるのよ! [/speech_bubble]

アルバート・エリスのABCDE理論

A(Activating Event)とは、……きっかけとなる出来事や対人コミュニケーション、外部環境。

例えば、会社の上司に、自分の能力を最大限に使って作った企画を強く批判されたというような出来事。。

B(Belief)とは、……客観的な外部の出来事(事象)や人間関係をどのように受け止めるのかという信念・認知・考え方。

[speech_bubble type="think" subtype="L1" icon="kf.jpg" name="著者A"]上司に怒られるということは、私は能力無い[/speech_bubble]

例えば、上司から仕事の成果を否定された自分は、自分に能力が無いので、これからも、ずっと優れた結果を残すことが出来ないだろうという考え方(認知)。

C(Consequence)とは、……個人の特定の認知や信念(思考)によって発生した結果。

[speech_bubble type="think" subtype="L1" icon="kf.jpg" name="著者A"]だから、やる気ない! [/speech_bubble]

例えば、上記の自分の能力の過小評価によって発生する抑うつ感や無能感、やる気の低下、出社拒否というような結果。

D(Dispute)とは、……さまざまな心理的問題や不適応状態を生み出す非合理的な信念(イラショナル・ビリーフ)に対する論理的な反論や有効な反駁。

[speech_bubble type="think" subtype="L1" icon="ke.jpg" name="著者A"]いつも上司が私の事を怒っているわけではない! [/speech_bubble]

例えば、上司が必ずしも常に正確に仕事の評価をしてるわけではない。だから、一時の自分の仕事を否定されても、違うタイミングや、他の人が自分の仕事の成果を高く評価してくれる可能性があるという合理的な反論。

E(Effective New Belief)とは、……気分の落ち込みや感情の悪化などの問題を未然に予防できる効果的な新しい信念や人生哲学。

[speech_bubble type="think" subtype="L1" icon="ke.jpg" name="著者A"]人の意見に振り回される必要はない。自分の意欲と努力の問題だ! [/speech_bubble]

例えば、必要以上に他人の意見や評価に振り回される必要はない。まして、それによって自己嫌悪に陥るのは馬鹿馬鹿しい。自分の意欲と努力があれば、必ず成果が出るという考え方や哲学の設定

アーロン・ベックの理論

以上のアルバート・エリスの考えに対して、アーロン・ベックは、「自動思考(automatic thought)」や「スキーマ」という概念を持ち出してきました。

基本的には、何らかをきっかけにしてふと頭の中に浮かび上がってきた思考を「自動思考」と言います。その中の悲観的(否定的)な自動思考の特徴を類型化したものを「認知の歪み」として提言しました。

[speech_bubble type="think" subtype="L1" icon="kao.jpg" name="著者A"]・・・ふっと浮かぶ考え・・否定的な仮説・推論が、気分の悪化へ! [/speech_bubble]

[speech_bubble type="think" subtype="L2" icon="kao.jpg" name="著者A"]その否定的な思考をつくる原因が、認知の歪み、その根っこのスキーマ! [/speech_bubble]

自動思考がなぜ不適切な思考になってしまうのかと言うと、「推論の誤謬(否定的な仮定)」が「認知の歪み」の直接的な原因となっているというモデルです。

「認知の歪み」によって生み出される「否定的な自動思考(悲観的な思考)」を、反論することによって、否定的な自動思考から導かれる気分の悪化やネガテイブな感情(抑うつ状態・無力感・怒り・悲しみ)を改善しようというものです。

ただ、類型化された認知の歪みは、必ずしも厳格に定義されたものではありませんが、クライアントやそれに取り組む実務家にとって、思考のモニタリングの大きな手がかりとなるものです。

[speech_bubble type="think" subtype="L2" icon="kao.jpg" name="著者A"]抑うつスキーマは、「自己」「世界(他者)」「未来」の三つに対して、悲観的で破滅的な価値判断[/speech_bubble]

認知の歪みの根底にある抑うつスキーマ(理論的枠組み)は、「自己」「世界(他者)」「未来」の三つに対して、悲観的で破滅的な価値判断をするスキーマであり、アーロン・ベックは、これを「認知的三本柱(The cognitive triad)」と呼びました。

・原因は、すべて自分

・この事は、全てにつながる

・状況は、ずっと変わらない

「認知の三本柱」は『抑うつ認知の三大徴候』と表現されることもあります。

アーロン・ベックはこのスキーマの書き直しをうつ病治療の最終目標としたようです。この帰属理論は、後に、マーチン・セリグマンの「楽観性を学習する」に引き継がれ、現在のレジリエンストレーニングにつながって来ています。

まとめ

アルバート・エリスが、B(Belief)と一言で説明したものを、アーロン・ベックは、自動思考とより深い所にあるスキーマの二階層に分けて考えました。

アルバート・エリスの論理療法は、自動思考の検証と反証から入って行き、より深い考え方にアプローチしていくという事で、アーロン・ベックの考えと非常に親和性がありますね。

どちらにしても、上手く活用したいものですね。

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