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歴史変遷

フロイトからABC理論への変遷:心理学の認知革命

2017/12/24

人が反応するのは、外的な「出来事A」では無く、その出来事を自分がどのように「解釈B」したかによって「結果C(感情・行動)」が起こるという有名なABC理論は、レジリエンストレーニングで必ずおこなうものです。

[speech_bubble type="think" subtype="R1" icon="ke.jpg" name="認知モデル"]自分の認知で、自分の感情や行動がきまる?![/speech_bubble]

今回は、その理論の心理学上の歴史と位置づけを改めて整理してみました。

目次

心理学のはじめ

心理(学)」と「精神(科医)」は、一つの英単語だったのです。ところが、明治の時代、初めに翻訳した際に心理学と医学の世界で、異なる翻訳をしたため、現在も二つ並行して使われています。

日本では、初めから混乱していますね。

心理学が哲学から分かれて独立的な学問になったのは1870年代と言われ、今で言う脳科学のような領域でした。

みんな知ってるフロイト

その後、みなさんが良く知っている、初めて「無意識」を扱った精神分析学のフロイトが有名になりだしたのが1910年代ごろです。

(1895年、フロイトが39歳のとき、ヒステリーの原因は幼少期に受けた性的虐待が原因という精神病理について発表しています)

今流行りのアドラーも、フロイトとは距離をおいてましたが、この時代の人ですね。ユングは、この二人を対照的に比較して論評しいています。

[speech_bubble type="think" subtype="L1" icon="kao.jpg" name="著者"]フロイトとアドラーは、同時代の人[/speech_bubble]

フロイトは臨床医として、当時の脳科学的アプローチに限界を感じて、意識や無意識に目を向けたと言われています。

その後、精神分析の心理学は、ユングや他の多くの分派ができ、今も脈々と続いています。今は、トラウマやPTSDについて誰でも知っていて、問題とされる症状です。

フロイトと同じころ始まった他の二つの心理学

一方、1920年代から、フロイト達に対抗して、人間の内的・心的状態に着目せず科学的に行動を研究すべきという行動主義心理学が生まれてきます。

この辺からは、馴染みが薄くなりますね。

1930年代後半には、精神分析、行動主義に対して、第三勢力として、自己実現理論のマズローを筆頭にカールロジャース等が含まれる人間性心理学が生まれ、心理学は、三つの勢力の時代がはじまりました。

アドラーも人間性心理学に分類されるようですが、アドラーはフロイトと同世代です。

カールロジャースについての参考リンク:知っている自分自身は、ほんの一部分だと知ってますか?

行動療法の元祖/認知療法よりずっと古くからの心理学

話しを、行動主義心理学に戻します。

古典的行動主義は、「外からは観察ができない心 の存在を認めず、行動は遺伝と環境の両因子の組み合わせによって決定される」という仮説を持っていました。

古典行動主義的な考えを持った心理学者は、「刺激-反応」がどのように形成され、強化されるかという事を、マウスのような動物実験を繰り返し、古典的な学習理論を構築してきました。

この後、「単に刺激に反応するだけで無く、その背景に目的が存在する」という新行動主義 の考えが生まれてきます。「刺激-反応-目的」の構図で、それが、心理的過程を含めた学習理論へと展開していきます。

そして、この目的は、不適切な行動を変化させることで、物事に対する反応の仕方を変えることでした。

また、後のコンピュータや認知科学が現れてくるまでは、学習の心理的過程は、ブラックボックスを推測するに過ぎませんでした。

この新行動主義心理学は、今も行われている行動療法を生み出し、現在、「認知行動療法」として認知療法と親和性を持って統合されています。

「行動療法」という言葉は、スキナーが1954年に始めて使用し、ハンス・アイゼンクが広めたようです。

まだ認知心理学という言葉が無い1950年代、臨床系は、精神分析を、医学系は、新行動主義を勉強していました。

そんな中で、「認知の革命」が起こりました。

認知革命

アルバート・エリス

アルバート・エリスが1955年に「論理療法」を提唱。

内容は、不合理な信念(イラショナル・ビリーフ)を識別・明確化し、それに対して論理的な検討(反論)をおこない、それを修正するというものです。

当時の精神分析による治療に対し「治療に何年もかける必要はない」と対抗しました。

これが最初の認知療法とされているABC理論です。

アーロン・ベック

1963年にアーロン・ベックが提唱したのが「人が成長するにつれ固定的な物事の捉え方(スキーマ)が形成され、それによって歪んだ思考方法や考えが自然に浮かぶ自動思考が起こり、その認知の歪みに焦点を当て、認知を修正することで症状を改善する」という心理療法です。

巨人達の共通点

アルバート・エリスとアーロン・ベックは、それぞれ精神分析を学んだ心理学者であり精神科医です。二人の共通なところは、外的な出来事が感情や身体反応を直接引き起こすのではなく、その出来事をどのように認知するかによって身体反応や感情、行動が異なってくるというものです。

当時、行動と感情だけに着目していた心理学の世界に、思考や言語による理解の論理上の誤りに修正を加えることを目的とし、「認知」が、「感情」と「行動」に密接に関係していると主張しました。

参考:論理的に考えるとは、言葉で考えること!

精神分析の無意識とは異なり、観察可能な意識的な「思考」に焦点を当てたので、測定が可能となり、そのため、多くの調査研究が実施されてきました。

その後、1967年にナイサーが「認知心理学」という本を出して、その言葉が広がりました。

認知療法のABC理論をレジリエンストレーニングへ

話しを戻して、アーロン・ベックの認知療法の考え方と、やり方の詳細は、

「人間は世界のありのままを観ているのではなく、その一部を抽出し、解釈し、「認知」していて、その認知には必ず個人差があり、客観的な世界そのものとは異なっています。そのため、誤解や思い込み、拡大解釈などが含まれた自らに不都合な認知をしてしまい、結果として様々な嫌な気分(怒り、悲しみ、混乱、抑うつ)が生じてくる」と仮定しています。

認知療法では「不快な気分」や「不適切な行動」の背景として「考え方」つまり「認知」に着目し、この不適切な認知⇨気分、行動の流れを紙に書いて明確化し、また、それらに別の観点を見つけるように紙に書いて修正を試みる事を試みます。

具体的なやり方を詳しく紹介:落ち込んだときのために、認知行動療法「コラム法」の実践を分かりやすく紹介します

現在では認知行動療法として統合されていますが、この認知療法は、「自分でもできる」ことをアルバート・エリスやアーロン・ベックは提唱していました。

このようなシンプルさと、言語による明瞭さがあって、もともとコーピングの手法ながら、レジリエンストレーニングによく組み込まれています。

参考:レジリエンスとコーピング

しかし、難点は、このように自分の認知や思考を見つめ、論理的に検証するには、かなりの精神的エネルギーが必要です。そのため、うつ症の傾向が強い人達にとっては、この思考をおこなうこと自体に無理があります。

付録

認知行動療法という名称が最初に現れたのは、ドナルド・マイケンバウムの本1971年だそうで、1980年代に、認知療法と行動療法を、認知行動療法へと積極的に統合したのはイギリスのポール・サルコフスキスだそうです。

なお、認知行動療法は、無意識や防衛機制といった精神分析の前提条件は除外されています。しかし、認知行動療法と精神分析療法のアプローチ法は違いますが、両者が考える心理的過程は、本質的に同じものです。

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