コーピングとレジリエンスの違いについて
2017/12/24
今回は、心理学の中でのコーピングとレジリエンスの関係をテーマにしました。
目次
ストレスの原因と影響
そもそも論から、
歴史を調べると、コーピングに関連する「ストレス」についての研究が古く、ストレス自体の論文は1930年代後半からあります。
ストレス原因をライフイベントとする説から始まり、1970年前後からコントロールできない「嫌悪感」としての認知論へと変化していきます。
また、1980年代には、「重大な出来事より、日常の些細な出来事の積み重ねの方が、健康と密接に関係する」という研究が出てきました。しかし、この事は、驚きですが、あまり現在の日本では一般には知られていません。
ストレス対処としてのコーピング
80年代からコーピング(対処)という言葉が使われ始めました。また、動物実験では1970年代後半でもストレス反応としてコーピングの単語が使われていました。
「ストレスフル」の意味は、自分の価値、信念、目標に対する「損害」「脅威」「挑戦」と3分類しています。
[speech_bubble type="think" subtype="L1" icon="me.jpg" name=“著者”]ストレス要因は自分に対する損害、脅威、挑戦の三種 [/speech_bubble]
[speech_bubble type="think" subtype="R1" icon="me.jpg" name=“著者”]挑戦は、自分の挑戦という意味ですね[/speech_bubble]
「損害」が実際の害なのに対し、「脅威」は、実害が未だない状態ですが、将来に害が及ぶであろうと予測できる状態です。
「挑戦」もストレス要因ですが、「脅威」との比較よって挑戦の結果得るものが大きければ、行動に出るという構図です。この辺は、チクセントミハイのフロー理論と近いですね。
そして、このように刺激(ストレッサー)にどのように対処していくか(認知的、行動的努力)が、コーピングという定義になります。
人間は、刺激に対して、ストレス反応を通常起こします。
ストレス反応とは、ストレッサーに対するネガティブな反応の事です。それには、生理的覚醒、免疫力低下、否定的行動反応、主観的認識等があります。
その中の「主観的認識によるストレス反応」には、二種あり、短期的なエモーション反応と、長期的な身体的疾患や社会的機能の低下があります。
このようなストレス反応にどのように対処していくが、コーピングですので、治療的ニュアンスがあります。
レジリエンスの研究
一方、レジリエンスは、1979年の研究論文で初めて心理学の分野の単語として使われ、それ以降、環境適応という広い概念で、学術的な議論がなされてきました。
レジリエンスは、コーピングと同じく、もともと物理用語でした。さらにホメオスタシスに関連した論議からスタートしていたことからも根っ子は同じと言ってもよいぐらいです。
しかし、コーピングがストレス対処という限定的な定義に対して、レジリエンスは、一時的な不適応からの回復だけでなく、経験を通じてより強化されるところまで含まれるところが異なったところです。
さらにセリグマン率いるポジティブ心理学のアメリカでの注目に牽引されて、「コーピングの治療という狭い世界」から、「レジリエンスという言葉を使って、一般の広い世界からの注目」が集まるようになりました。
レジリエンスは個人の特性か能力か
レジリエンスの定義は学者によって様々ありますが、大きく三つの切り口があります。
ひとつは、能力のような個人特性という点から説明しようとするもの。
二つ目は、刺激に対して適応していく心理的なプロセスとするもの。
最後は、上ふたつの考えを合体させたもの。
セリグマンの言っているレジリエンスコンピテンシーは、個人的特性としてレジリエンスを定義している1つの例です。
そもそも、レジリエンストレーニングをする場合、レジリエンスは能力であり、それは開発できるという前提ですし、学習性無気力感を論文発表したセリグマンですから、レジリエンスを能力で定義して当然とも考えられます。
レジリエンスとコーピングの違い
6つのレジリエンス・コンピテンシー
セリグマンの定義したコンピテンシー、いわゆる、能力によるレジリエンスの定義です。
1.自分の事に気づく・発見する(自己の気づきSelf-awareness)
2.自分を自分で規制し、コントロールする(自己コントロールself-regulation)
3.現実的でありながら、可能性に着目する(現実的楽観力Optimism)
4.物事を異なった視点からでも見ることが出来る精神的な機敏性(精神的機敏性Mental agility)
5.自分自身に活力を見出す強み(Strength of Character)
6.相互に支援し合うことが出来る強い人間関係力(関係性の力Connection)
コーピングとの違い
この定義を使ってコーピングとの違いを説明すると、緑色の3~6がコーピングと異なる点です。
コーピングは、事後の治療のためにどうするか、その意図的な介入のニュアンスが強く感じられます。それに対して、レジリエンスは、緩衝的側面と、自ら復活していく面の人間の力強さを強く感じます。
コーピングは、ストレッサーを、自分でコントロールが「できるか」「できないか」を問題にします。
レジリエンスの特徴
一方、レジリエンスは、本人の楽観力や強みに注目していて、プロアクティブ(前もって対応的)な面があり、コーピングが「治癒」や「治療」なら、レジリエンスは、より積極的な「学習」という側面が強くあります。
また、精神的機敏性や関係性の力は、ストレッサーに対して緩衝材的な面がうかがえ、ストレス反応を小さくできる能力という面が盛り込まれています。
例えば、「楽観性」は、ポジティブ心理学でたびたび出てくる単語ですが、案外誤って理解している人達が多くいます。
「楽観性」とは、「自分でコントロールできるところに焦点をあてる」や「可能性を探しだす」という思考をすることを意味します。
けっして、「自分にとって都合が良いところしか見ない」とか「上手く行くと信じる」というものではありません。
まして、「ポジティブに考える」という片寄った思考を推奨するものでもありません。
レジリエンスとは、偏った見方でなく、より正確に物事を認知する力であり、より冷静で合理的に思考できる力だと、私は考えています。そして、社会に適応しつつ、かつ、自分らしくあることがレジリエンスが高い状態だとも考えています。
さらに、セリグマンは、この楽観性は、「学習」できると主張して来ました。この辺が、アーロン・ベックの時代と変わった点ですね。
人にとって「学習」のプロセスは、「治療」とは大分違うものですから、同じ基礎理論を応用する場合でも一筋縄では行きませんね。