ノーベル賞を受賞したカーネマン博士の直感的思考と認知バイアスの話
2017/12/27
「思考には、厳密に考える思考と直感的で素早く考える思考がある」と主張したのが、ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマン博士です。
正確には、1999年に「ピーク・エンドの法則」を発表する前から、「システム1とシステム2の思考」として紹介されていました。ちなみに、行動経済学の「プロスペクト理論」でノーベル賞を受賞したのは、2002年です。
今回は、カーネマン博士のプロスペクト理論を支えているヒューリスティックスと認知バイアスの理論をいろいろ集めてみましました。
[speech_bubble type="think" subtype="L1" icon="me.jpg" name=“著者”]誰もがいつもしている思考、ヒューリスティックス[/speech_bubble]
「認知バイアス」をアーロン・ベックの「認知のゆがみ」と同じと誤って理解している人もたくさんいるようですので、確認して下さいね。
目次
直感的思考のいろいろな名前
上記の直感的思考の名前は、最近は、「心理学で言うヒューリスティックス」と表現するのが、正確な表現のようです。
他には、「システム1」「ファスト思考」という言い方もあります。紛らわしいですね。
心理学でないヒューリスティックスの意味は、何かを短時間で楽に識別したり、判断させたいときに利用する「単純化された手掛かり」のことです。
例えば、信号機です。本来、青・黄・赤という色自体には何の意味は無いのですが、青=進め、黄=注意、赤=停まれという意味を持たせ、共有することで、色を見るだけで「進めるかどうか」が判断できるようにした単純化です。
ヒューリスティックスという直感的思考とは
直感的思考である「ヒューリスティックス」とは、人が問題解決のための意思決定を行うとき、無意識のうちに使うようになるシンプルな解決パターンやその思考のことです。
この思考のメリットは、自動的で高速に処理でき、エネルギーをほとんど使わない省エネ思考だということです。そして、自分では、思考プロセスをコントロールできないくらいの即決です。しかし、あまり理詰めの思考とは言えません。
簡単にいうと「近似ショートカット」です。
そのため、結論が大体のところに着地し、認知バイアス(ゆがみ)もあります。
人には、直感的思考とは、まったく別の「システム2」の合理的思考があります。この思考は、すべての情報をインストールし直し、それらの情報を評価し直して、一からアルゴリズムのように理詰めで考えていくものです。
そのため、いくら優秀な脳でも、ある程度時間を要し、エネルギーをかなり消費します。
そこで直感的思考の出番です。
この直感的思考のおかげで、心的エネルギーの大量消費を防止し、意志力も温存できます。
「意志力」についての参考リンク:「意志力」は、意志を実行するパワー!「意志が弱い」のではないです
ヒューリスティックスは、偏桃体等から起こるエモーションがセットになっている本能的思考とは別物です。したがって、上述の「バイアス(ゆがみ)」は、アーロンベックの言う「認知のゆがみ」とも違ったものです。
偏桃体等から起こるエモーションがついている「本能的思考」の参考リンク:フロイトの「自我」「エス」「超自我」を、脳科学でサクッと検証
アーロンベックの「認知のゆがみ」についての参考リンク:「認知のゆがみ」と「スキーマ」/スキーマを変える
また、直感的思考と言ってもデタラメということではありません。ただ、ちょっと誤差が発生するだけですので、多くの場合、この思考で事足ります。
おそらく、朝起きて、会社や学校に到着するまでの間で、朝食の会話以外、例えば、ワイシャツやブラウスのボタンを「上から留めるか」「下から留めるか」とか、人とすれ違う時に「右側からか」「左側からか」というような決定は、直感的思考で充分です。
しかし、朝食の時の家族との会話を直観的思考だけにしていたら、大変なしっぺ返しが来ることがあるかもしれません。例えば、「今度の夏休みをどう過ごすか」という話があるかもしれません。このような重要な意思決定に対して無意識に直感的思考を使ってしまっていては大変なことになります。
この直感的思考が動いているとき
ヒューリスティックスは、意思決定の代替案の印象や感覚、そして自分の選択の傾向を作り出します。
直感的思考は、すべてが無意識の思考ではありませんから、(最後は意識化されるので)そこから出された結論を自分で決定すれば、直感的思考による結論が自分の確信や意志となります。
また、特定のパターンが感知されたとき、自分に注意を喚起するよう事前に組み込むことが可能です。職人さんの技もこの範疇です。
一方、違和感を感じることなく自然に受け入れられると、真実だと錯覚し、心地よくさえ感じて警戒心を解いてしまいます。
逆に、違和感を感じると、「驚き」として、異常を識別します。さらに「状態」よりも「変化」に敏感となり、感受性が高くなっています。
「感受性」というのは、状態の比較による違いを発見することであり、突き詰めれば、どれだけ細部まで記憶しているかということになります。
直感的思考と認知バイアス
ここで紹介するヒューリスティックスとバイアス(ひずみ)は、誰でもあるもので、脳の錯覚のようなもので、無くすことができないものです。ですから、如何に上手く付き合うかということになります。
利用可能性ヒューリスティック
Availability Heuristic
自分で、いつも触れたりして記憶や想像しやすいものを優先しやすい思考です。
これには,新聞・テレビなど物理的によく触れる情報と、自分の記憶の中で鮮明に残っている情報や新しく入手した情報などの心理的な要因に関わるものがあります。
人は、ある事例を思い浮かべやすければ、起こりやすいと判断しやすい傾向があります。
代表性ヒューリスティック
Representative heuristic
ある出来事が典型的と考えられたものを見つけたとき、それを過大に評価しやすく、「よくあること」と考えがちです。
人は、あらゆる出来事を知ることも、記憶することもできません。限られた情報を用いて全体を判断しようとするものです。
例えば、「あの人は,風貌や振る舞いが自分の抱く学者タイプにぴったりなので,大学の先生に違いないと判断する」というものです。
平均への回帰
経験から、異常なことや極端なことは起こりにくいことを知っているため、平均的な状況になるだろうと期待します。
ところが、それほど極端ではないことについては、平均に戻る傾向を無視して、そのまま継続するのではないかと考えてしまいます。 つまり、ばらつき(分布)を過小評価する傾向があります。
「異常なことや極端なことは起こりにくい「という知識は、限られた数の事例に対しても、 ランダムに起こる(統計と同じ値)と期待しやすい傾向があります。
また、私たちは、2つ以上の事柄が関連して起きるものについて、あまり正確に判断することができません。
(質問)ルーレットの今までの結果です。次に黒にかけるなら、どちらの台にかけますか?
①「赤黒赤黒黒赤」
②「黒赤赤黒黒黒」
赤黒の出る確率は、毎回独立なもので、前の出方は関係しません。したがって、①②共に同じ確率ですが,わりと多くの人が①を選んでしまいます。
連言錯誤(リンダ問題)
(質問)リンダは31歳、独身。意見を率直に言い、また非常に聡明です。彼女は哲学を専攻していました。学生時代、彼女は差別や社会正義の問題に深く関心を持ち、反核デモにも参加していました。
彼女についてもっともありそうなものはどれでしょうか?
- リンダはフェミニズム運動家である
- リンダは銀行員である
- リンダはフェミニズム運動家で銀行員である
リンダに関する選択肢の中では,フェミニズム運動家である1はあり得ると考えられますが,銀行員であることの2は質問の本文に何も書いてないので、ありそうにないと考えます。しかし、3は2を含むので、3は、2よりありそうに感じてしまいます。(論理的に誤り)ですが、少なくない人数の回答者が「フェミニズム運動」というキーワードに引っ張られて3が2よりありそうで可能性が高いと回答します。
確証ヒューリスティック
Confirmation heuristic
アンカリングと調整
最終の選択の段階で,暗に示唆された情報(アンカー)に引きづられるというバイアス
大学生に①「あなたはどれだけ幸せですか」②「あなたはどのくらいデートをしていますか」という二つの質問を実施。
①→②の順番で質問した場合、回答はバラバラでした。
しかし、②→①の順番で質問した場合,デートしてる人は、かなりの人が「幸せ」と回答しました。
同じですが、「おとり効果」と呼ぶ場合があります。
不動産屋さんで、アパートを探しているとしましょう。まったくタイプの違うアパートのAとBを紹介され悩んでいます。
そこに、Aと同じタイプのA'を紹介されましたが、少し見劣りするものでした。すると、Aのアパートが三つの中で最も魅力的に思えるようになりました。
合コンに行くときは,自分と同じようなタイプで若干劣る人を連れていくとよいかも。
認知バイアス
ヒューリスティックが思考プロセスの広い範囲を説明しているのに対して、認知バイアスは、部分的な思考のひずみのようです。
再認バイアス
初めて聞くものより、聞いたことのあるものを高く評価するというバイアス
感情バイアス
好き嫌いに引き摺られて判断するというバイアス
保有効果バイアス
人があるものや状態(財だけでなく,地位,権利,意見など)を,それを持っていない場合に比べて,持っている場合に高く評価すること。
自分が所有するものに高い価値を感じ,手放したくないと感じる心理の投影
フレーミング効果
「選択肢の提示のされ方」によって、意思決定が変わるというものです。同じ情報でも、異なる表現によって人の心に異なる連想をもたらします。
手術の成功率「死亡率5%」/「生存率95%
後知恵バイアス
過去の事象を予測可能であったかのように見る傾向
事象の予測が当たった場合、予測が的中した人は、結果が出る前より予測が強かったと記憶する傾向があるという実証実験があります。
「だから、そう言ったでしょ」という急に強気な発言は本気の言葉のようです。
確証バイアス
自説を支持し、確証することがらを収集し、重用する傾向です。自分の記憶を探っていけばいくほど,自説を裏付けるデータばかりが浮かび上がってきます。
正常性バイアス
多少の異常事態が起こっても,それを正常の範囲内としてとらえ、心を平静に保とうとするバイアス
ゲリラ豪雨に襲われて避難命令が出ているのに、自分だけは何故か大丈夫という無根拠な自信がある。