第三世代の心理療法と言われるマインドフルネスと認知行動療法
2017/12/27
マインドフルネスという単語は、マインドフルネス瞑想のような「技法や治療法」を意味する場合と、その結果、得られる「能動的に注意力をコントロールしている精神状態」を意味する場合の二つがあります。
今回は「技法・治療法」という意味で、マインドフルネスという言葉を使います。
内容がちょっと、専門的過ぎたかもしれませんが、私の最新をアップデートしてます。
目次
第三世代の心理療法と言われる理由
マインドフルネスが科学になった日
マインドフルネスが科学的研究対象になったのは1990年で、マサチューセッツ大学メディカル・センターのジョン・カバット・ジンによってです。出版は1984年です。
ストレス障害のコーピングプログラムとして、8週間の「マインドフルネス ストレス低減法MBSR」を発表しました。
そして、マインドフルネスやアクセプタンス等のアプローチ法が、心理療法の第三世代と呼ばれていますが、それは、認知行動療法より優れたものとか、新しい世代が、全てに置き換えられるという意味ではありません。
単純に、うつ病に対する異なった仮説、アプローチという観点で歴史的に分類したら、「第三世代ですね」というものです。
また、日本では、行動療法と認知療法を区別せず、認知行動療法として表現するのが一般的です。
第一世代は行動療法
行動療法という言葉は、スキナーが始めで使いましたが、この単語を広めたり、この療法の研究を深めたのは他の学者達です。
この行動療法の目標は、「ある出来事に対する不適切な行動を修正する」ことです。
下記のブログで「ヘビに対する恐怖反応の治療例」を紹介しましたが、治療の中で「ヘビに対しての恐怖の原因」について触れることはありません。
参考リンク:漠然とした「不安」に対処する:認知行動療法の応用
下図は、ある出来事が起こったときのエモーション(原始的感情)の変化です。
治療は、このエモーションが、ハイテンションのピークの時に起こる反応行動の修正を試みます。
しかし、このエモーションカーブを小さくしようという試みはしていません。
反応行動を修正し、パニック行動がなくなった結果、エモーションカーブが小さくなってピークが低くなります。
これは、自分のパニック行動が自分のエモーションを増幅するという悪循環を断ち切るという観点から、認知療法と親和性があり、第二世代の開拓者のアーロン・ベック自身も始めから使っていた技法です。
第二世代は認知療法
心理学の認知革命後の世代が第二世代です。
ポイントは、何だかの出来事の認知(解釈)によってエモーションが発生しています。
問題は、このエモーションを起こす解釈であり、その思考を変えれば、エモーション発生の原因が無くなるという考え方です。
上図の丸で囲んだ出来事の解釈を変える認知療法と、行動療法による出来事の反応行動の変容を併用する事で、うつ病の原因を取り除こうしました。
第三世代は
マインドフルネスだけでなく、アクセプタンス&コミットメント・セラピーやValue等が含まれます。これらの目的は、下図の点に焦点を当てるということですが、誤解が無いように下記に説明します。
マインドフルネスの焦点が、第一、第二世代と違います。
その意味は、ネガティブ感情そのものや、その原因を扱わないということです。
そして、マインドフルネスが取り扱うのは、「注意」であり「焦点」です。
要は、発生したネガティブ感情をコントロールしようとするのでは無く、「距離を置いて」「客観視する」意識の状態を作るということが、マインドフルネスの目的です。
一方、感情から距離を置いて客観視するという点は、行動療法と認知療法ともに、マインドフルネスと共通しています。
マインドフルネスの医学界デビュー
マインドフルネスの臨床効果は多く証明されていますが、そのメカニズムは、全て明快に説明されているとは言えませんが、それも時間の問題でしょう。
認知療法がうつ病患者の研究から始まったように、マインドフルネスの心理学での位置づけの始まりは、うつ病治癒者の研究からでした。
認知療法の論理的メカニズムの仮説検証
認知心理学も、エビデンス・ベースという実証主義が盛んで、心理療法の効果測定を実施しました。もちろん、効果測定の仕方自体の開発もしなとなりません。
1980年代、認知療法によるうつ病治癒者の調査では、抑うつの症状は改善され、スキーマも改善されているという結果が出ていました。
スキーマとは?の参考リンク:「認知のゆがみ」と「スキーマ」/スキーマを変える:アーロン・ベック
しかし、1980年代後半、うつ病治癒者にとってのネガティブ感情を呼び起こす言葉に対して、ポジティブな反応をしているという研究報告が出てきました。
「それなら、問題無いし、治療の効果あったね!」と思ってしまいますが、実は、細かく言うと、それまでの認知療法の理論とは違う結果になりました。
それまでの認知療法の仮説は、治療によって「ネガティブ感情の原因は消える」というものでした。
しかし、この研究では、「原因は消えるのではなく、一連の反応の仕方が上書きされる」ということになります。
また、違う研究では、「うつ病治癒者は、ネガティブな認知に影響されやすく、うつ症状を思い出し、抑うつ的な思考に陥りやすい」というレポートもあります。
この調査から、「思考がエモーションを決めているが、その思考に出来事だけでなく、本人の感情が影響を与えている」という新たな学説がでました。
この仮説は、これまでのアーロン・ベックの認知療法の理論で説明できないことが、説明できるようになったのです。
そうすると、「自分の感情を如何にして、客観的に見つめられるようにするか」という事が、医学的に求められます。
そこで注目を集めたのが、瞑想であり、マインドフルネスです。
マインドフルネスを要素分解してメカニズムを研究
2000年代に、自分の脈拍の音を機械的に大きくして、本人に聞かせたらどのようになるか?という実験があります。
一般的に、心拍に注意を向けると、不安が強まりまることは、古くから知られていました。これは、身体的な変化を生命の危機と捉えやすいためと考えられています。
そこで、マインドフルネス的に、客観的に距離をおき、観察するよう指示し、良い悪いの判断をしないよう注意を向けるよう促しました。
この指示を受けて一周間のグループと、示唆を受けないグループでの不安感調査(アンケートのみならず脳内分泌物検査)の差は、主観的不安感の低減のみが証明されました。
これは1週間という実験の短さによる原因かもしれないと、レポート自体に書いてあります。
まだまだ、基礎レベルな実証研究はこれからですね。
MIT式マインドフルネスの8週間プログラム
マインドフルネスのやり方は、インターネットでたくさん紹介されてるので、当時MBSRの7つの手法(演習)を紹介します。
<実施のガイドライン>
- 今、ここで!この瞬間に注目する
- 判断を保留する。かってな判断をしない
- 提示の示す事に集中する。他のことを考えてもガンバって戻る
レーズンを味わい尽くす
瞑想とはどのようなものかを知るための最初のプログラムです。
各自に3粒のレーズン準備し、一粒ずつ食べて行きます。
最初は、レーズンの観察に集中します。二、三分かけて、表面の色、形、感触、匂いを観察していきます。
次に二、三分かけて、口の中に入れて、ゆっくりと感触を確かめ、噛み、味わい、最後に飲み込みます。
参加者は、「食べる」という最も日常的で身近なことが、いかに機械的に行われているかを気づくことができるようになります。
呼吸法
「仰向けに寝る」か「椅子に座った姿勢」で実施。
開眼、閉眼どちらでもOK。
腹式呼吸を行い、その呼吸に集中します。
(肩を上下して呼吸せず、お腹を膨らませたり、小さくして呼吸します。お腹に手を添えて、手が自然に動くことを確認するとコツがわかります。仰向けに寝るとやり易いでしょう)
呼吸以外のことに注意が向いたら、その注意をそらせたものを確認して、また、呼吸に注意を戻します。
呼吸に注意を向けるということは、呼吸について考えるのではなく、呼吸に伴う自分の体の動き、例えば、喉の奥の空気の動き、肺や横隔膜の反応等の体の動きやリズムの、今の状態に集中することです。
毎日15分、実施します。
正座しての瞑想
床にあぐらをかきます。椅子に座ってもOKです。習熟レベルを5段階とセットしています。
- 楽な気持ちで、腹式呼吸で呼吸に集中。1日一回10分からスタートし、徐々に伸ばしていき30分を目指します。
- 呼吸への集中が安定してきたたら、腹部から周りに意識を広げる
- 音に集中し、音だけを聞くようにする
- スタートの2〜3分間だけ、浮かんでくる思考や感情に注意をむける。いきなり浮かんでくる思考や感情に入り込まないで、どのようにそれが浮かんでくるかを観察する。残りの時間は、前の段階に行った呼吸や音に集中する。
- 何に対しも注意をはらわず、意識したものを観察する。
ボディ・スキャン
仰向けになって目を閉じます。注意を身体の部分に集中し、そこが感じている感覚を感じとる様にします。そして、十分に集中した後、他の部分に移動させ集中し、順次移動させていきます。
ヨーガ瞑想法
様々なヨーガの姿勢をとって、その時に発生する感覚に集中します。
歩行瞑想法
ゆっくりと歩行できる場所で、ゆっくりと注意を集中できる早さで歩きます。集中力を維持するために足裏の一点のような特定の場所を決めて実施します。
日常瞑想トレーニング
日常の顔をあらう、着替えをする等をおこなう際に、その行動に集中し、その瞬間の思考や感覚に気づくようにします。
8週間にわたり、上記の手法を組み合わせておこないます。