人は、何故、落ち込むのでしょうか?それは、自分を守るため
2017/12/26
今回は、そもそも「人は、何故、落ち込むのか」という素朴な問題を考えてみました。
目次
人は、自分の命を自動的に守るようプログラムされている
「人は、落ち込みやすいようにできている」というのを知っていますか?何故なら、精神的エネルギーが少なくなると、落ち込むようになっているからです。
脳の仕組みが原因
精神的エネルギーを大量に消費するメカニズムは、人間が動物であるという現実から発生しています。
私達は、人間は知性を持っているので、他の生物と区別し、特別なものと考えがちです。しかし、人間自身は、確実に生命を守る事を第一優先するように人類が生まれた5万年前から脳の構造がそうなっています。
「え?何それ?」と思う人がいるかもしれませんが、人間の脳の構造は人類が発生した太古の時代からほとんど変わっていません。そのため、人類に進化した時の自己生命の保持や子孫へのDNA継承という基本的な欲求である本能をそのまま今も保持しています。
脳の構造については、この脳のムカニズについてのリンクから
脳のプログラム
例えば、自分の生命の危機を感じるときは、その危機を取り除くために「攻撃」に出るということがあります。現代社会で言えば「カチン!と来る」とか「キレる」という現象です。みなさんにもよくあることですね。
また、この危機を自分の力では取り除けないと感じると「回避」や「逃避」という思考や行動となります。これを今風に言えば、「物事を避ける」とか、「気づかない」というリアクションとなります。最たる逃避の例は「気を失う」というものです。
さらに、具体的な脅威が何か分からなくても、不安で落ち着かなくイライラしたりします。人間は、心の中で警鐘を鳴らすことで、起りうる脅威に対して何らかの準備をするように脳や体が、自らを突き動かしているのです。
原始の時代では、狩りがうまく行かず獲物がいつまでも取れないと、寝ることもできず、獲物を求めさまようようになります。また、稲の生育が思わしくなくなると、たとえ食料の蓄えがあっても、何かを求め森に出かけ夜を徹して活動をするという「探索」的な行動を、人は取ります。
これらのことは、自分の生命を守るために、人間が何よりも第一優先しておこなう反応ということです。
これらの「攻撃」「回避」「逃避」「探索」という思考や行動は、人間のDNAに刻み込まれていて、誰でも生まれたときから持っている脳のプログラムです。ですから、このような行動を無くすことはできません。
ただし、「何に反応するか」ということは後天的に学習します。ですから、各自の経験によってこれらの原因は違ってきます。これらのことは現代の脳科学によって証明されてきています。
脳の中の、せめぎ合い
今まで話してきた「生命維持のための思考や行動」は、前頭葉ではなく、偏桃体や脳幹、脳下垂体という原始の脳で行われます。そして、これらの思考や行動は「ネガティブな感情」とセットとなっていて、時として、肉体を傷つけ、精神的エネルギーを大量消費します。これが、ストレス反応ということで、落ち込みの大きな原因となります。
実は、脳は、合議の上で一つの結論になるのではなく、様々な異なる思考が主張を変えることなく力関係で自分の考えが決まっています。
分かりやすく言えば、「カチンときた」ときは、偏桃体が莫大な力を発揮し、偏桃体を押さえつけようとする理性をつかさどる前頭葉に対して、血流を絞るという荒業を使って、前頭葉の力を弱めます。そして偏桃体の思考が「その人の考え」すべてとなります。
理性の行使も、生命が無ければ何もできないので、原始の時代は理に適った仕組みと言えますが、現代社会において生命の危機はそんなに頻繁は起こりません。そのため様々な不適応を起こす原因となってきます。
そして、精神的エネルギーを浪費して、落ち込む要因を作り出しています。脳は体重の2%強しかないのに対して、エネルギー消費は全体の20%もあります。こんな大食いな脳のエネルギー消費を生命危機処理のために扁桃体に使用するのは、あまりにも無駄と言えます。
落ち込むのは、生命危機のスイッチを入れること
さらに、生命の危機と感じ、判断するための「認識」の問題があります。
認識
単純に言えば、「危険だ」と感じなければ偏桃体は動かないので、「カチンとこない」のです。と言っても、この感受性の鈍い人たちは遠くの昔に(死の危険を察知せず)死に絶えています。ですから、「現在に生きるみなさんは、危機に対する感受性が相当に高い子孫ということになります。そのため世の中は、「脅威」と「不安」で溢れているように見えても仕方のないことです。
このような「認識」については、かなりの文章を尽くさないと理解が難しいものですので、別の機会の譲るとして、今回は、「落ち込みやすい理由」を網羅的に触れておきましょう。
学習性無力感
「落ち込む」原因のもう一つは、脳(前頭葉)が「無気力を学習する」ということです。単純に言えば、「いくら頑張って事態を変えようと挑戦しても事態が変わらなければ、『自分ではどうにもできないから、思考や行動するためのエネルギーを出すのをやめよう』と学習する」ということです。
有名なハーバード大学の2割以上の学生にうつ症状が見られるという話があります。彼らは地方の学校でトップだったからハーバード大学に入れたのでしょうが、その彼らがいくら頑張って勉強しても大学の成績が上がらないという経験をすると、次第に勉強する気力が薄れ、最終的に授業にも学校にも来なくなり引き籠りとなるという事例があります。これは学習性無気力感の典型でしょう。
スキーマ
今まで、「偏桃体の思考とネガティブ感情」に陥る原因として、①認識②学習性無気力感について触れました。①②とも、「頭に描いた(考え出した)事」に反応して起こることです。一方、もともとこのような考えを生み出す「(ネガティブな)基礎的な思考パターン」のようなマスタープログラムがあり、これを「スキーマ」と心理学者のアーロン・ベックが名づけました。
彼は、「誰もが精神的なエネルギーが低下したとき、このスキーマが現れ、ネガティブな思考と感情を作り出すことになる」とも述べています。
このように、今の人間は、落ち込みやすい要因をたくさん持っています。
良いニュース
しかし、良い知らせもあります。前頭葉は、脳の中で最も新しい組織で強大力を持っていて、古い脳を押さえつけることができると言われています。特に「脳の再評価」という働きがあり、過去の嫌な経験や記憶もすべて見直し、組み立てなおすことができると言われています。
また、アルツハイマーのような海馬の収縮症状や前頭葉の機能不全も、訓練によって小脳が代わって機能することができるという研究発表もあり、実際治療に応用されています。
人間が落ち込みやすいのは、脳の仕組みと機能にありますが、一方では、脳は素晴らしい学習力と強さを持っています。
現代では、心理学と脳科学が統合され、人々の生活を改善するための様々な効果的なアプローチがなされようとしています。
それが、認知行動療法やマインドフルネス、アクセプタンス、レジリエンス等のプログラムです。
心理学のフロイトから認知革命の関連リンクはこちらから